電縁プロジェクト実験



電縁プロジェクト実験計画書
〜地域活性化を視野においた防災情報システム〜
崇城大学エコデザイン学科 森山聡之
背景

2003年7月23日の水俣宝河内における土石流災害から5年、あれほど騒がれた「住民への情報伝達」はほとんど改善の様子は無い。
変わったのは、水害避難マップが作成され配布された事、水俣久木野地区の唯一の携帯電話キャリアであるドコモがFOMAになったぐらいである。
しかし、水俣の深川より奥の地区は相変わらずブロードバンドゼロ地区であり、久木野に至っては、ドコモしかサービスされていない。いまだもって、64kbpsのISDNが最速であり、水俣の山間部に進出しているイーモバイル・ウイルコム以外の携帯3社は、携帯電話にパソコンを接続すると青天井のパケット代を払わざるを得ない。このため、電子地図を含む大容量の情報を送るには時間がかかりすぎるか、膨大な通信費(パケット代)を払う必要が出てくる。
こんな事では、防災はおろか、中山間部の地域活性化は不可能であるため、インフラを含めた実験を行う必要があると考えていた。崇城大学エコデザイン学科森山研究室では、早くからこの問題に取り組み、実験準備を行って来た。

目的

本実験の目的は、
(1)インターネットサービスの1つである、地域SNS(ソーシャルネットワークサービス)に、GIS(地理情報システム)を付加したgiSightを、住民が自ら情報共有する仕組みを提供するとともに、電子地図上に、森山研究室開発の土砂災害危険度マップをリアルタイムに掲載するシステムを提供する。これにより、地域の細かな情報を外部にも発信して行く事が可能になる。

(2)無線LAN技術を用いて、深川から久木野までブロードバンドを延伸するとともに、衛星インターネットシステム(ブロードバンド)を(株)COTEC社より1ヶ月程度借用し、豪雨時にどの程度の回線切断があるかどうかを実験する。

(3)前項のブロードバンドを用いて、インターネットテレビ生中継を行い、地域からの情報発信を行う。

ことにより、地域活性化を行うことで防災のレベル向上をめざすものである。

詳細
(1)giSightによる実験
giSightは、招待状が必要なシステムであるので、愛林館沢畑館長のメールマガジン(約1500名)で実験への協力を呼びかけ、応じる意思がある人だけ招待メールを送り、登録していただく。
giSightには、避難所や消防署などの防災施設や、浸水想定図、土砂災害危険渓流等の表示も行う予定である。giSightの画面については、最後に掲載している。
(2)ブロードバンド回線による実験
無線LANによる回線は図1のように設置の準備を進めている。無線回線は深川ー薄原間は802.11gのため最高速度は54Mbpsであるが、薄原ー仁王木山ー愛林館間は802.11bであるため、最高速度は11Mbpsである。

無線LAN回線
図1 無線回線の概要

衛星インターネットは、図2のようなアンテナを水俣愛林館に設置する。システムはCOTEC社提供のもので、最高速度は上り回線512kbps、下り回線は2.5Mbpsである。周波数が無線LAN回線に比べるとかなり高いので、降雨による電波の減衰があり、豪雨時の回線切断が懸念される。このため、本実験では常時接続を監視し、データ雨量計のデータと照合してどの程度の雨で回線が切断されるかを検証する。具体的には、Linuxサーバを設置し、fpingコマンドを1分ごとに起動し、回線の疎通を確認する。

衛星インターネットアンテナ設置状況
図2 衛星インターネット用のアンテナ設置状況


(3)インターネットテレビ生中継
ブロードバンド回線があれば、インターネットテレビ生中継が可能になる。
今回は愛林館の2つのコンテンツを生中継し、地域の情報発信の一助とするとともに、水俣在住者に中継実験に参加してもらい、生中継の技術を継承して頂く。

6/28(土) 19時から フォレストモンキーバンド演奏生中継
7/28(月) 初級棚田食育士養成 食育実践講座
13時から16時まで    
講義1 食育基礎知識講座(講師 沢畑)
17時から18時30分まで 
実習5 「創作里山料理と和のテーブルコーディネイト」(講師 千葉しのぶ)

期間 衛星インターネットは6月13日から7月31日
無線LANは、7月上旬から翌年3月末日まで

費用 平成18年度〜20年度文部科学省科学研究費基盤研究(B)「降水レーダを用いた次世代土砂災害予警報システムの構築とその応用」および河川環境管理財団河川整備基金「土砂災害被害低減のための防災情報システムの実用化研究」による。

共催 NPO法人防災ネット研究所(福岡、代表理事 平野宗夫 九大名誉教授)
NPO法人楽しいモグラクラブ(札幌、理事長 平田真弓)

後援 総務省九州総合通信局
水俣市

協力 国土交通省九州地方整備局河川部、(株)COTEC、(株)宇宙通信
熊本県河川課・砂防課

用語の説明

電縁プロジェクトとは
「電」は電脳網つまりネットの事であり、「縁」は、人間の縁・つながりを意味する。これにより、田援、すなわち特に中山間部の地域活性化を視野に置いているプロジェクトであり、防災以外にも各分野でネットを用いたサポートを計画している。

GISとは
Geographic Information System(地理情報システム)の略で、電子地図の上に複数の層(レイヤ)を設定し、そのレイヤー上に各種情報を置く事で、地図と関連づけた各種情報が表示可能となる。
高機能なものが市販されているが、GoogleMapのように、簡単に使えるものもある。本実験ではGoogleMapに近い使いやすいものを目指している。

SNSとは
SNSとはソーシャルネットワーキングサービス(SocialNetworking Service)の略である。SNSに登録するには紹介者が必要でかつ友人関係を表示する事が可能であり、いわば実際の人脈をもとに、システムに招待・登録を行い情報交換を行うシステムである。日本では、mixi(ミクシイ)が、数100万人の会員を擁する最大手であるが、GISも防災情報にも対応していない。
一方、通常の防災情報伝達が、避難勧告など何らかの人間によるチェックを受けて行われるため、一刻を争う土砂災害の場合には、手遅れやミスを誘発しやすい。
本プロジェクトでは、住民が情報発信を行う人間の人脈を確認する事で、流言飛語を防止し、その信頼性を担保することにし、できるだけ早く情報を共有可能にする。このためにSNSを導入した。

地図データについて
地図データは、熊本県河川課および鹿児島県砂防課より借用している航空写真を用いている。航空写真の最大解像度は20cm/pixelである。

土砂災害危険度マップとは
土砂災害危険度マップとは、土石流及び斜面崩壊の発生の危険度を地図上に表示したものである。現時点から斜面の到達時間(水俣では3時間)分の過去の雨量の和が、発生限界降雨量をこえると、災害の発生危険度が高くなることが、平野宗夫九州大学名誉教授らの研究で明らかになっている。

土砂災害危険度マップ
図3 giSightに表示された土砂災害危険度マップの例


giSightとは
giSightとは、森山研究室が設計し、NPO法人防災ネット研究所が地図データをgiSight向けに変換し、NPO法人楽しいモグラクラブのIT事業部であるitkaiが、プログラムを実装したGIS付き地域SNSである。GISの表示部分は、Flash(Flex2)を用いクライアントのブラウザで動作している。サーバにはCMS(ホームページコンテンツ管理システム)であるDrupalに、SNS関連のモジュールを付加したシステムである。本実験では、水俣市周辺部を対象とし、地域のデータを共有するとともに、国土交通省河川局のレーダ雨量データから土砂災害危険度マップをリアルタイムに生成表示する予定である。giSightのキャプチャ画面を以下に示す。

giSight
図4 giSightのログイン画面(右側にお友達リストを表示)

 

宝河内砂防ダム
図5 giSightによる水俣宝河内周辺の表示

宝川内砂防ダム拡大
図6 giSightによる水俣宝河内の砂防ダムの表示